会社情報

イングランド法を母法とする信託は、妻と子供を残して十字軍に従軍すべく戦地に赴く夫であり、父である戦士が親友にその財産を託した歴史的経緯に端を発するそうです。
そうだとすると信託の由来は家族信託（family trust）にあるのであり、実務でも私が香港ソリシター（香港事務弁護士）として海外の信託に関与した圧倒的多数の事例は、英系コモン・ロー圏及び米国にいて家族信託に関わります。

しかし、日本では信託が導入された大正時代以降、商業信託を中心に発展するという本家本元のコモン・ローの現実からすると、ある意味で特殊な経緯を辿ってきました。
人生100年時代を見据えた新たな家族信託の利用可能性に着眼した信託法改正があったのは今から僅か16年前の2006年（平成18年）であり、日本において家族信託をどう根付かせることができるかは、法律面のみならず、会計、税制面に関しても専門家が決定的に不足しており、法整備面でも多数の不備が存在する現状では、見通しがつきません。

そこで、私たちは 2022 年8月2日、内閣総理大臣の登録を得て、管理型信託会社を設立しました。

敢えて初期段階において管理型信託会社としたのは、受託者（trustee）が裁量を有する裁量信託（discretionary trust）に相当する運用型信託会社を経営するような経験も能力もないことを自覚するからです。
しかも、確定信託（fixed trust）に相当する管理型信託会社ならば、私たちだけで何でもできるなどとは夢にも思っていません。

アイディアだけならば、たくさんあります。

例えば遺言による遺言執行人に替わり、信託に遺言代替機能及び遺言変造防止機能（検認を不要とする機能）を発揮させるだけでなく、被相続人が存命中に事理弁識能力の全部又は一部を喪失した場合における成年後見代替機能や、相続発生時において私たち多種多様な専門家がワンストップで相続人に対して相続後の合理的な対応をアドバイスする総合アドバイザリー機能、信託の組成を通じて「争続」を防止する相続関連紛争防止機能などです。
でも、歴史ある立派な信託銀行、信託会社と異なり、私たちは自力本願で国益に資するアイディアを実現できるとは思っていません。

　だから、私たちは私たち以外の全国の相続関連業務を行う弁護士、司法書士、税理士等、専門家との協働により、信託を活用して何ができるかを一緒に検討していきたいと思っています。
個々の専門家が自分で信託会社を設立するのは、ハードルが高いですから、法が許容する範囲で私たちが信託活用を検討する共通プラットフォームになりたいと願っているのです（相互的な他力本願システムです）。

私たちの挑戦には、海外投資家のために信託を通じて日本の不動産を購入するお手伝いをする新たな試みも含まれます。
OECD の FATF（金融活動作業部会）から日本のアンチマネーロンダリング防止体制には厳しい評価が下され続けていますが、私たちはこの分野で高評価を得ている香港の同体制の経験のもとに、海外へも開かれた新たな信託を目指します。
この文脈では、委託者（settlor）、受益者（beneficiaries）に対して英系コモン・ロー圏の信託法（law of trust）と日本信託法の異同を英語、中国語で説明できる私たちの専門性が必ず活かされる、と信じています。

決して急がず、地歩を固めながら、私たちは新時代の日本型信託の未来創造に寄与すべく、最大限努力してまいります。